INTERVIEW

J.A.K.A.M. meets TAVITO NANAO『Prometheus』

 DJとしてこれまでに数々の奇跡を現場で生み出し、またサウンドプロデューサーとして創造性豊かに、多義に渡り活躍するJ.A.K.A.M.ことJUZU a.k.a MOOCHYと、ポップな中にサイケデリック感を持ち合わせた孤高のシンガーソングライター七尾旅人。それぞれの土壌で音楽を突き詰める2人が強力タッグを組み、『Prometheus』を完成させた。  J.A.K.A.M.が生み出したポジティヴに刻むビートと、その周りを自由かつ縦横無尽に行き交う音の数々。そのサウンドを軸に、七尾旅人の美しい歌声がメロディに乗りフロウしていく。深い音を奏でるのはベテランギタリストのブラボー小松、そしてダンスフロアでも極上な音が鳴り響くよう、マスタリングはJ.A.K.A.M.の長年の盟友であるSinkichi(Churashima Navigator)が担当。ジャケットデザインは、水曜日のカンパネラやEYヨなどのコアなアーティストたちからも絶大な信頼を得るアーティスト、河野未彩が手がけたことにより、視覚的にもより一層想像力が膨らむ創造物になった。

 七尾旅人がJ.A.K.A.M.の存在を知ったのは、プロデビューして間もない頃のことだ。「部屋で1人ガットギターを使って歌を作っていた10代の頃、当時の友人がいくつかパーティーへ連れて行ってくれたのですが、その中でひときわ印象に残っていたのがMOOCHY(J.A.K.A.M.)さんのプレイでした。猥雑な都市の路地裏から、密林へと続く砂埃けぶる未舗装の道まで、世界中のあらゆるストリートをつなぎ結えていくようなスケールの大きさが彼の音楽の魅力で、それは人柄についても同じことが言えるのでは」(七尾旅人)。

そして2003年、共通の知り合いを介して2人は邂逅を果たす。「マドモワゼル朱鷺ちゃんに下北のスタジオに連れて行かれ、旅人くんがどんな人かも知らないまま、3時間ほど自分がドラムを叩き、朱鷺ちゃんがキーボードを弾き、旅人くんが声とアコギを弾くというセッションをしたことがあったんですが、そのときが初対面。その後、彼がくれたCDを拝聴して、すごい表現者だと把握したんです」(J.A.K.A.M.)。

 それから約17年と月日が流れ、J.A.K.A.M.の中で七尾旅人とともに曲を制作したいという願いが生まれた。そして2020年初頭、J.A.K.A.M.は七尾旅人にヴォーカルを依頼する。「マドモアゼル朱鷺ちゃんの件でいろいろな事実が明るみになる中、あの人のために曲を捧げたくなり、出会ったときからソウルメイト的な感じがしてならなかった旅人君と一緒に作りたいと思ったんです。それで特に何も触れずに旅人くんへラフトラックを送ったら、すぐに『やりたい』と返信が来て、それで夏に改めて連絡したとき、既に歌詞はできていて、旅人君も『朱鷺ちゃんをイメージしていた』と。それから秋に声の音源データが届き、そこから本格的に制作が始まりました」(J.A.K.A.M.)。

 七尾旅人は初めてJ.A.K.A.M.からラフトラックが届いたとき、「とても美しく壮大なトラックで、シンセやヴォコーダーの織りなすハーモニーが完璧だと思ったので、そのニュアンスを壊さないよう余白を意識した歌メロ、歌詞、構成を考えようと思い、またダンストラックとしての機能を損なわないよう、適切な余白を準備した上で、物語性と密度のある日本語詞が書けないかと模索しました」(七尾旅人)。

そこから数カ月を経て、七尾旅人から届いた歌を聴いたときJ.A.K.A.M.はこう感じたという。「メロディーもあるけど、それよりもポエトリー的な印象が強くて。その世界観が、自分にとってはすごくイマジネイティヴで、それに触発されて、自分の妄想が完全に起爆しました」(J.A.K.A.M.)。

 2人の間を行き来して完成した『Prometheus』。その制作過程を「まるで巡礼の旅のようだった」と七尾旅人が表現したように、日々、細かい微調整を繰り返し完成までにやりとりされたファイルは70以上にも登ったそうだ。ちなみにタイトルの『Prometheus(プロメテウス)』とは、ギリシア神話に登場する「先見の明の持ち主」を意味する男神のこと。人類に火を与えたことで天界を追放された曰く付きの神のことであり、2人を引き合わせたマドモアゼル朱鷺を彷彿させる。

 J.A.K.A.M.と七尾旅人の両者にとって特別な存在であり、2006年に他界をしてしまったマドモアゼル朱鷺は、どのような人物であったのだろうか。 「逸話も多く、文章では語りきれないのですが、強いて言えば、破天荒な人で、笑えたり、笑えなかったりする事件の連続すぎて……。人間臭さや、情熱を他の人とは違うレベルで見せつけてくれたこと。オカルト全般に造詣が深く、その奥にある『見えないもの』に対する考え方、太古から続くシャーマニズムというものに現実感を持たせてくれたことは、本当にありがたく思っています」(J.A.K.A.M.)

「自由奔放で、発想にまったく制約のない人でした。突飛な行動に驚かされることも多かったですが、トランスジェンダーとして今よりさらに差別も根深かった時代に、彼女が幼い頃から追い求め続けた本当の自由や安寧を想像したとき、『Prometheus』の歌詞が出てきました。今も銀河の何処かで、彼女にしか出来ないダンスを続けていることでしょう」(七尾旅人)

 J.A.K.A.M. meets TAVITO NANAO『Prometheus』は、レコード・ストア・デイとなる6月12日に、300枚限定のヴァイナル(10インチフォーマット)でリリースされることが決定している。 「リスナーがそれぞれの想像力で、この詩と音の世界を楽しんでくれたらと思います。裏面に収録されたインストバージョンでも伝わるであろう、ダブ的でありながら緻密な音響創作は温もりのあるレコード/ヴァイナルで是非体感して頂きたいですね」(J.A.K.A.M.) 「友人に捧げた曲ではありますが、前知識なしで偶然観る映画みたいな感じで、気楽に聴いてみてもらえたら嬉しいです。これは、孤独を抱えながらも自由を求めるすべての人のための曲だと、個人的にはそう思っているので」(七尾旅人)

ダンスフロアを愛する人々へ向けて。またひとつ「愛」に満ち溢れた曲が誕生したことを確信する。

<インタビュー・編集> Kana Yoshioka
BACK