INTERVIEW

【CPS(SINKICHI + J.A.K.A.M.)「Asian Dub Chapter.3」について】

SINKICHIと、J.A.K.A.M.によるプロデュースユニットCPS。CPSとは「Co-Prosperity Sphere」の略で、共栄圏という意味合いを持つ。日本人であり、アジア大陸の民である彼らが、これまで生きてきた中で肌で感じてきたことを、音楽を通じて表現していこうというのがCPSのミッションであるが、この度、ミャンマーをテーマに「Asian Dub Chapter.3」を制作。すでにBand Campでリリースされている。2021年に入り、毎日のように報道されているミャンマークーデター。それに対して、必然に目を向けた2人が動き出し制作された2曲は、2000年を月日を経ても尚、存在し続けるビルマの音楽(音)からサンプリングを施し、2007年に起きた反政府デモよりメッセージ性の高い言葉を拾い、そして陰陽も網羅してきたCPSの2人だから発することができる、ポップなダンスフロア・チューンに仕上がっている。また、Band Campで得た「Asian Dub Chapter.3」の収益金は、ビルマ救援センターへ100%寄付するとのこと。音楽で世界を少しでも救うことができたらと願う、彼らの願いは濁りがない。


【CPS ( SINKICHI + J.A.K.A.M.)「Asian Dub Chapter.3」】

CPS ( SINKICHI + J.A.K.A.M.)結成秘話を教えていただけますでしょうか? SHINKICHIさんと、J.A.K.A.M.さんはどのような音楽仲間でいらっしゃいますか?

SINKICHI:90年代の中頃に京都のライブハウスで出会い、当時としては珍しくバンドとDJを並行してやっているという事で瞬時に意気投合してから20年以上の付き合いになります。 近年はJ.A.K.A.M.のリリースする楽曲のマスタリングを担当したり、私のバンドのリミックスを手がけてもらったりしています。

J.A.K.A.M. : 自分がやっていたEcilPowersMeというバンドで京都Woopiesというライブハウスでライブしに行った時、そこで働いていたSinkichiがAnarchicAdjustmentのTシャツを着ていて、それに対して『なかなかいいTシャツ着てるね』って言ったら『ウニョウニョやろ?』って返してきたのが始まりですw
Sinkichiが語るように共通する音楽的考えはその当時と変わらず、今も一致してます。 僕の人生でも超VIPな音楽仲間ですw


CPSではどのような楽曲作りを目指していますか? 今作しかり、これまでの楽曲について教えてください。

SINKICHI:個人的に今回は勢いで進んでしまった感じですが、お互いに共通する世界の伝統的音楽への造詣と、ダンスフロアで機能するエレクトロニックミュージックを、我々の持つセンスで融合していければと考えています。

J.A.K.A.M. : 名前はいつも後付けだと思いますが、共栄圏、という発想はSinkichiといろんな意味で共有してると思ったからです。その言葉は大東亜共栄圏という言葉からもちろん来ています。それは第二次大戦や敗戦、軍国主義を彷彿とさせるし、実際その構想は実現できているとは言い難く、トータルでダークなイメージはあるかもしれないですが、『壊れた夢』のようなものの、そのカケラを拾い、新たな夢を抱くことを自分自体も必要としています。 共に栄えるにはどうしたらいいのか?という発想をもって音楽制作に臨む、というある意味当たり前ですが、それによって生まれるミラクルを共有したいですね。今回の2曲もまたミラクル感じました。


「Asian Dub Chapter.3」ですが、ミャンマー(exビルマ)をテーマに楽曲制作をされましたが、ミャンマーを選んだ理由を教えていただけますでしょうか。

SINKICHI:昨年、ミャンマーの現地録音物をリリースしている東京のレーベル「ROLLERS RECORDINGS』の井口氏よりリミックスを依頼され、その制作に伴い彼からROLLERS RECORDINGSの作品群を聴かせていただき深く感銘を受けていました。そして、個人的にこの10年は東南アジアでのDJやライブ活動が多く、ミャンマーの人達とも少なからず交流することが出来て、コロナ渦が過ぎた後はミャンマーへ行こうと思っていた矢先のクーデターでしたので、相当なリアリティーを持って衝撃を受けてしまい、何か出来ないものかと悶々としていたタイミングでラマダン月を迎えたので、毎年何気にラマダンの断食を行なっている我々の共同制作は必然的にミャンマーをテーマにしたものになった、と思います。

J.A.K.A.M. : 選んだという感覚は全くないんですが、たまたま、というのも違う気がします。ともかくこの数ヶ月ミャンマーには行ったこともないのに、なんだか大変そうだな、と思っていました。裏に悪徳軍需産業がのさばって、代理戦争させられてんだろうな、くらいな印象だったのですが、『世界の音楽シリーズ』の『ビルマの竪琴』を友達がうちにお茶しに来ているときのBGMで何の気もなく、ただうっすらとミャンマー今大変だし、聴いてみようとレコードでかけて聴いていたら、友達の話が聞こえなくなってしまうくらい(苦笑)、聴き惚れてしまって...
それまで何回も聴いていたとはあったんですが、タイミングなのか、インシャッラー(神の思し召し) と言いますか...心に響いてしまったんですね。その響いた時間は長く、その3週間後くらいからラマダンが始まるタイミングでSinkichiにしてもらった別件のマスタリングが完了し、入れ替えのような形で、その流れは生まれました。何かミャンマーの為にやろう、と。


ダンスフロアに向けたポップ感のある内容になっているなと感じました。楽曲を魅力を教えていただけますでしょうか?またどのようなやりとりや経緯を経て、曲は仕上がりましたでしょうか?

SINKICHI:最初にJ.A.K.A.M.より小泉文夫氏の世界の民俗音楽シリーズのビルマ編の2枚のレコードをリッピングしたデータが届きました。そこからサンプルを抜き出し、ハードウェア機材でシーケンスを組んでPCに取り込んでデータをやりとりしながらお互いのトラックに新たに音を重ねながら進行しました。J.A.K.A.M.が先に作っていたIYMがより完成形に近かったので、音質を揃えるために最終的なMIX作業は彼に委ねて私はマスタリングに集中する事になりました。
P4Mはビルマの旋律打楽器サインワインと竹琴の音階に忠実にシーケンスを組んだので、原曲の持つポップかつ激しい感じが引き継がれていると思います。
IYMはJ.A.K.A.M.の美しく哀愁を帯びたメロディーセンスと緻密なビート裁きの絡みが緻密で、今までにない独特のグルーヴが生まれていると思います。

J.A.K.A.M. : IntoYourMIndは2008年にCDリリースした『MOVEMENTS』というアルバムに収録されたHoianというトラックのベーシックで何かをやろうと思い、例のレコードの一番好きな曲をのせてみたら、なんだか不思議なくらいにハマってしまったんです。あとはそのサウンという竪琴と歌をまるでちゃんとそのトラックに合わせて歌ってくれたように響かせる作業でした。ある程度の段階でSinkichiにステムデータ(ベースやキック、などパーツによって分けられたオーディオデータ)を投げて、彼がシンセをのせてくれたのをまた加工、編集し、仕上げました。
Pray4Asiaに関しては、最初に自分が録音したレコードの音源からSinkichiが選んだ音で彼自体がベーシックのトラックを作り、ある程度の段階でステムを投げられたところからアレンジをこちらでやり、音を加え、そこからまたステムを投げ、微調整してもらってから最終的に自分がMIXをしました。何回かそれを投げ、意見やアドヴァイスを聴きながら仕上げました。


小泉文夫監修の V. A「ビルマの竪琴」や、世界の音楽シリーズのビルマ編より、サンプリングされたとのことですが、ビルマの音楽の魅力はどのようなところにありますか?
また、この2枚のアルバムに出会ったきっかけや、実際にその中からどのような曲を選ばれましたでしょうか?


SINKICHI:ミャンマーは政治的に長らく鎖国に近かったという影響もあり、東南アジア諸国の中では西洋諸国の影響をほぼ受けずに音楽が進化してきたので、ミャンマー音楽の響きは西洋音楽に耳慣れている我々にとっては新鮮で驚きの連続です。一時的な民主化が始まった2010年頃からは若者を中心にHIPHOPやEDM等も盛んになっていたようなので、その辺りも非常に興味があるところでしたが、今後どうなる事やらです。
小泉文夫氏のビルマ編の2枚はいつ出会ったのかも思い出せない、昔から馴染みのあるレコードで、世界の民族音楽シリーズの中でも名盤だと思います。特にP4Aで使用したビルマの民族楽器のサインワイン楽団の演奏は超絶驚異的で、いつかはサンプルで使用したいと考えていたのですが、その音楽構造の複雑さから中々手出しできず、今回は勢いでやってしまいました。

J.A.K.A.M. : そのレコードに付随する文章からしか分かりませんが、とにかくその『ビルマの竪琴』が2000年前から変わらない形状をしているということは、すごいことで、ある意味、その2000年前に演奏されていたヴァイブレーションを蘇らせることができるということでもあり、それが鎖国状態だったからこそ、保存されていたのは間違いありません。インドやタイ、中国、そしてミクロネシア、ポリネシアなどミャンマーの周辺のカルチャーが、そこで培養されていた事実は楽器のユニークさからも明らかです。日本も江戸時代に独自の文化が育まれましたが、時には閉じこもるのも内部発酵するのにはいいのかもしれませんね。


ミャンマーの民主化運動で合唱されていた音声を、ドキュメンタリー映画『ビルマVJ 消された革命』よりサンプリングしたとお聞きしております。お2人は、このドキュメンタリー映像を観たとき、どのようなことを感じましたでしょうか? また、実際に行動に移されたことがありましたら教えてください。

SINKICHI 世界各地で良く見る繰り返される光景、、毎回このような光景を見る度にこのような事が2度と無いようにと願います。今回のクーデターに対する民衆の反発は前回2007年の抵抗活動より激しいようですし、今はインターネットがあるので前回より閉ざされていないように感じます。 我々は今回のリリースで得た収益を日本ビルマ救援センターを通じてミャンマーの民衆に寄付する予定です。

J.A.K.A.M. : 10代前半から影響をうけたHardCorePunkのジャケットやPublicEnemyのジャケットを思い出す凄惨なシーンがあり、軍政がもたらす狂気を感じます。
しかし、軍人の中にも葛藤はあると思い、それが今後の解決のキーになる気がします。
とにかくこの2007年のドキュメンタリーの状況は、現在のミャンマーとも同じだと思うし、また、チベットやパレスチナにも、そしてシリアやアフガニスタンまで繋がる話だと個人的には思っています。現在大手メディアは裏で操る軍産複合体とその奥にある財閥との癒着で、真実は語られないことが多く、また真実とは一体なんなのか、それ自体も個人の立場、状況によって見え方が違うと思います。なので個人的には自分のやれる行動で、その直感力、判断力を養う活動をしていけたらと思います。それは個人的には音楽です。
それを今回販売するのではなく、ビルマの音楽から受けたインスピレーションのお返しに、感謝として、純利益をチャリティーとして寄付します。僕らが集めれるお金は大したことはないかもしれませんが、作った音楽が今回の一件と絡められることで、音自体からも現状の解決へのヒントとして感じてもらえたら幸いです。お金やモノで人の苦しみが解決するわけではないと思うので...
無形である音楽の意味は言葉にならないメッセージでもあると思っています。


「ビルマVJ 消された革命」でも見られるように、ミャンマーのリアルな現状を、CPSの2人も、この曲を通じてミャンマーの現状を伝えたいと思いますか?

SINKICHI はい。ミャンマーの現状もそうですし、そこに繋がるアジア各国の情勢を、日本もアジアの一員として考えるきっかけになればと思います。でも、まずはミャンマー音楽の素晴らしさに触れてほしいです。

J.A.K.A.M. : 自分が生まれ育ったこの国ですら、政情は闇に包まれていて、一概には現状を把握できていません。
つまり、僕らがミャンマーの現状をちゃんと理解し、判断し、解決策を出すのは現実的に難しいと思っています。
ただSinkichiと同じように、音楽を通して、太古から続く人類の音楽文化を通して、現在の国という概念すら超えた、大きな世界を、楽器から、メロディーから、グルーヴから読み解くことは決して無駄ではないと思うし、本当の理解というのは、そこを感じ、想像を膨らませることなのではと思います。未来を想像するために。


二人にとって昔から付き合いのあるデザイナーQOTAROOさんへ曲のイメージのデザインを依頼されましたが、QOTAROOさんとはどのような話をしましたか? 

SINKICHI:私は今回QOTAROOに何も話していませんが、東南アジアツアーの現場をよく共にしていたので(彼はバンコクに住んでいました。)彼なら間違いないと思っていました。出来上がってきたデザインは、東南アジアの長い歴史とミャンマー(ミャンマーに限らず、2014年クーデターで軍政化したタイも)の民衆の強い抵抗の意思がポップに融合した素晴らしい物だと感じました。

J.A.K.A.M. : QOTAROOがタイのバンコクに住んでいたことは知っていましたが、SInkichiから彼がミャンマーにも数回訪れていると聞き、電話で少し話をしました。印象として現地を訪れていない僕らよりも彼の方が当然リアリティーを持っていて、尚且つその軍事政権に対しての怒りは強く持っているように感じました。彼の中ではもっと、直接抗議をしたいテンションはあったと思いますが、楽曲のテーマとリンクさせ、太古から変わらない『石』というヴィジョンと、現在ミャンマーを中心に広がるハンドサインが混ざった秀逸なデザインを仕上げてくれたと思います。彼のデザインはいつも期待以上のものを出してくれるので感心しています。


曲を通じて、どのようなことをリスナーへ感じて欲しいでしょうか? また、何か伝えたいと思うことがありましたら教えていただけますでしょうか?

SINKICHI 複雑で厄介な事は多々ありますが、そこから目を背ける事なく、、しかし酷く汚い物事を見聞きしたり体験したりすると精神衛生上やはり浄化が必要になるので、そのためにも各地の民族音楽の楽しさ美しさに触れて欲しいと願います。
そして小泉文夫氏と中村とうよう氏の監修された世界の民族音楽シリーズは本当に素晴らしい(ライナーノーツも!)ので是非聴いてみて下さい。

J.A.K.A.M. : どちらの曲も1971年と1978年に録音された音源をベースに作りましたが、僕らの中ではその音自体に対する尊敬と感謝がきっかけです。いわゆる打ち込み、DTMではありますが、その音から聞こえてくる優しさ、逞しさを感じてもらい、ミャンマーに、そして人間の長い営みに想いを馳せて、ただ音に浸ってもらえたら嬉しいです。
そして聴き終わった後、大手メディアに黙殺されている諸国に、一瞬でも想いを馳せてもらえたら嬉しいです。


CPSの今後のインフォメーションがありましたら教えていただけますでしょうか?

SINKICHI まだ決まっていませんが、今回のリリースをヴァイナル化出来ればと密かに企んでおります。

J.A.K.A.M. : 色々とアイディアはありますので、虎視淡々とやっていきたいと思っています。


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