『ZEN TRAX』ヴァイナル化にあたり、今思うこと

▷ヴァイナル化して再びリリースするその理由

―2019年にリリースされたZEN RYDAZ 1stアルバム『ZEN TRAX』をバイナル化した理由を教えてください。

MACKA-CHIN このアルバムが出来た頃から、DJに向けたレコードを作りたいなと思っていたんだよね。DJのために音楽を作っているっていうのも、ZEN RYDAZの軸にあるし。それを思っていたときに、マンハッタンレコードの人から、「レコード ストア デイにリリースして、世界的にもカタログに名を貫くのはどうですか」とお声がけいただき、それでやるならもう一度お化粧直しすることになったんです。

―再構築した上でどのような部分をアップデートしましたか?

MaL:『ZEN TRAX』が2019年にリリースされたときは、CDと先行で2曲7インチで出したんだけど、アルバム用には構築していなかったんだよね。フォーマットとして、デジタルとバイナルとCDでは、それぞれ周波数も違うし、マスタリングの経路も変わってくる。自分たちは常にフロアめがけて作っているし、聴く側がなるべくフレッシュに聴こえるように落とし込む作業をするというか。

MOOCHY:『ZEN TRAX』のマスタリングは、MaLと以前一緒にやっていたe-muraくんが、ヴァイナル用にもマスタリングをしてくれていたんだけど、コロナ時期でいい意味で時間もできたし、2年の間で俺らもスキルアップして進化してきたから、このまま出すには悔しいと思い、メンバーとも話あってもう一度やるかってなったんだよね。で、予算的なこともあったから、今回はMaLがマスタリングをPC内だけどやることになって、外部を使わないでコンパクトにやりました。ヴァイナルはちゃんとした音でないとダメだから、その上でサウンド自体の擦り合わせを今回はできたかな。

―ZEN RYDAZは打ち込みの音に、ヴォーカルや生楽器の演奏が入ったりオーケストラ的じゃないですか。

MACKA-CHIN え、もう一回言って(笑)。だよね、だよね~。

―え!? 「オーケストラ」!!!

MaL:もっと褒めてっていうことですね(笑)。ヴァイナルって一般的には音がいいと思われがちなんですけど、どちらかというと音が悪いじゃないですけど、針で溝から振動を拾うと邪魔な音も出てくるんですね。今回マスタリングではヴァイナルになったときのいらない音を抜くという施しをやったんですけど、音を引き算していくって、音を作る上ですごく重要な工程なんだなって。このZEN RAYDAZのマスタリングではすごく勉強になった。

MOOCHY:「音のエジソン」という福岡のオーディオ屋の社長さんに、「ヴァイナルにするんだったら一切デジタルを通さないで、カセットテープとかで録音した方が音はいいですよ」って言われて。それはMaLが言っていたこととは逆になるんだけど、アナログはそれこそ無駄が(周波数帯域的に)上も下にもあって、それをテープとかのフォーマットに収めているけど、デジタル化すると技術の進歩でよりレンジが広がりはするけど、やっぱりリミットがあって、そのリミットを一度でも通してしまったらあとは一緒だって言われた。要は一度でもデジタルを通してしまったら、架空のアナログな音にしかならない。

MaL:まあ、そうなんだよね。

MACKA-CHIN:だから俺にとって、レコード(ヴァイナル)にすること=アナログはめちゃ難しいんだよね。もはやこの2020年代、ゆうてもジャガイモの皮を剥いているときとか、iPhoneで音楽聴いちゃってる自分もいるの。雑だけどココから出てくる音に慣れちゃってて。だからそれくらいレコード化するってデリケートな問題で、さらに今回このメンバーで荒波に揉まれて。2人とはキャリアの長さは一緒ですけど、自分はボーカリストでもあるからか、音に対して向き合い方が違う。その中でアナログにするってデリケートですごく難しいんだなって。 同じ肉じゃがでも、伝統的な京都の肉じゃがと、クックドゥの電子レンジで作る肉じゃがは、同じ肉じゃがなんだけど全然違う。その感じに似ていて、実際に針を落としたときにどういう環境で聴くかでも変わってくると思うから、それを体感してみたくてヴァイナルで作りたかったのかな。


▷リリースから2年を経て、進化したこと。

―この2年各々進化した部分はありますか?

MOOCHY:俺は単純にDTM。それこそ打ち込み、レコーディング、マスタリングまで含めて、この2年でいろいろな人たちと作って各々が学んできたと思うからノウハウがレベルアップしている感じ。

MACKA-CHIN:そういう意味では経験値と比例するのかな。時間軸と経験軸、2年前とはやっぱり全然違うものが出来上がってくる。知識も違うし、普通ならキックはローが出ている方がいいって思いがちだけど、キックのローを削るんだと俺は思ったしね。ジャンルによって音の展開図が違うから、トラップみたいなベースでキック打つんだとか。

MOOCHY:キックがベースの上にくるか、下にくるかみたいな話はよくするよね。

MaL:キックはローが出ている方がいいっていうのは、ヒップホップ的なんだよね。今回はキックがあってベースがブーンって鳴っていたら、キックの部分だけヘコむという作業をしていて、瞬間的にウエンウエンって鳴るようになっている。そうするとグルーヴも出てくるし、キックもベースもちゃんと低音がでる。

MOOCHY:それの最大の処理をやっているのがEDMなんだよね。

MaL:だからZEN RYDAZは渋いけど、 EDM的な要素も含まれている。

MACKA-CHIN :だから俺は、毎日驚きの連続。この間も俺が作ってきたやつを画面上で物理的に見てもらったら、2人がそれを見て話し込んでいるから「なんだろう?」と思ったら右半分出てないのよ。俺の適当な性格が出たよねって最後に言われたんだけど(笑)。

MOOCHY:失敗談。もう毎回誰かが傷ついている(笑)。俺とヨシテル(MACKA-CHINの本名)は付き合いは長いけど、実際には「MOMENTOS」っていうパーティで一緒にやって関係がより現実化していったんだよね。それでやってみないとスキルがわからなかったから、曲をバトンみたいに渡していったんだけど、そうするとヨシテルがだんだんと離脱して……。

MACKA-CHIN :もうやることはありません! って(笑)。その代わりに俺のポジションがあるなと思って、今もいるんですけど。

MOOCHY:新しいものを作っていく上で、ヨシテルの重要な役割は、客観的に見れるディレクション。それとヨシテルのワンループのオールドスクール的なヒップホップ感。一発で仕留めるフレーズとかいいなって改めてもう一度やってみて新しい発見もあった。



▷アジア、フューチャー、フリーダム

―3人ではどのように曲を作っているんですか。

MaL:『ZEN TRAX』に関しては、各々がベーシックな下地を作って、あとの2人に回していく。

MOOCHY:いずれにしても2ウェイではなく、グルっと回す1ウェイ。

MaL:「I-way feat. COMA-CHI」は、最初は「I Will Assist You」っていう曲名だったんだよね。

MOOCHY :意味合いも変わったけど、最初の曲からどんどん変わっていって、みんなの間をああだ、こうだレスポンズが続いて曲が出来上がっていく。

MACKA-CHIN:そのやりとりの中であるのが、ミヤワキ(MOOCHYの本名)の“イラつく”っていうZEN RAYDAZ名物(笑)。

MOOCHY:嫌だ、そんな名物(笑)。

MACKA-CHIN:そろそろZEN RAYDAZのキーホルダーで“イラつく”っていうのができるかもしれません(笑)。

及川景子:“イラつく”ってアラビア語で書くのもいいかもね。

MaL:(パソコンに向かい)これが最初の「I-way」です。

及川景子:これ私は、めっちゃ好きです。

MOOCHY:ちょっとアラブっぽいね。

MACKA-CHIN:ミヤワキな感じ。これもうDJブースでかけてそうだもん(笑)

MaL:そこから今の「I-way」になったんですけど、MOOCHYの音を消しちゃうと怒られそうだから、俺は足し算しかしてないです。

MOOCHY ええ~。ぜんぜん消してるっしょ! ちくしょおお!

一同笑

MaL:MOOCHYは引き算ガンガンしてくるんですけど(笑)。でも「Beginning feat. GORO & NISI-P」なんかは最初のままですね。
―MOOCHYさんの民族楽器を使う部分や、MaLさんのベースミュージック感、そしてMACKA-CHINさんのヒップホップ感、さらに共演者たちのヴォーカルや演奏が入ってきて、ZEN RAYDAZってすごいですよね。

MACKA-CHIN:超豪華なんだよね。この感じは他にない。

MOOCHY:「MOMENTOS」っていうパーティでは、それぞれ2人を招いたんだけど、そのパーティがワールドミュージックを基軸にしたパーティだったから、どんなジャンルにいってもそれを基軸においてやってもらったんだよね。それでZEN RAYDAZが始まってから、「ASIA」「FUTURE」「FREEDOM」っていう3つの言葉を基軸にして、アルバムもその流れで作ることになったんだよね。


▷甘口、中辛、辛口

MACKA-CHIN:俺はヒップホップだからサンプリングアートというか、音をサンプリングしてチョップして違うものにすることに美学を感じるのね。『ZEN TRAX』ではまさにそれを感じているんだけど、世界的にヒップホップのサンプリングとなると、どうしてもレアグルーヴや、ソウル、ファンクみたいなイメージがあって、ワールドミュージックをサンプリングしてヒップホップミュージックを作ったり、民族音楽をループして組むとか他に聞いたことがない。俺はもともとワールドミュージックが好きだから、デビュー当時からガムランをループしてラップする、ヒップホップでは異端児的なポジションにいるんだけど、「MOMENTOS」に呼ばれたときとかは、ただガムランとか、世界の民族シリーズとかをストレートにかけちゃいたくなる。でもこの2人はダンスミュージックを通じてそういう曲を知っている。だけど俺はそこに辿り着いていないから、パーティで俺のところだけ垂れてしまうわけよ。

MOOCHY:もう、ドン引き(笑)。

MACKA-CHIN:「コラコラ、クラブだぞ!」っていう。それと俺はアンビエント聴きながら本を読むのとかが好きだから、すぐにドラムを抜いちゃうの。ミヤワキのソロ『COUNTERPOINT RMX』とか、ずっと三味線で64小節くらいぜんぜんドラムがこないで、それドラム抜いちゃったり(笑)。

MOOCHY:『COUNTERPOINT RMX』ね。 https://www.nxs.jp/label_content/koko-0045.html
ZEN RYDAZ前にMACKA-CHINにリミックスやってもらっていた! それがベーシックにあるし、重要かもしれない。2017年か。

MaL:『COUNTERPOINT RMX』がリリースされた直後に、MOOCHYから4曲送られてきたんだよね。

MOOCHY 2人に送ってリミックスを頼んだんだけど、ぞれぞれの料理の仕方の感じがやっぱり面白いなと思って。それと俺たち3人は同じ年だから話やすいというのもあって、そこにNISI-Pくんが加わって準構成員みたいな感じなんだけど、そこでコンセンサスがとれた上で具体的な動きが始まったんだよね。で、俺が本当に短気で、せっかちなんで……。

MACKA-CHIN:本当にミヤワキは江戸っ子だよ。うちのお袋と一緒でチャキチャキなんですよ。

MOOCHY :ZEN RYDAZが始まった当初から、ある三者の人物を想像していてビンゴできているのが、「鳴かぬなら殺してしまえホトトギス」(織田信長)、「鳴かぬなら鳴かせてみようホトトギス」(豊臣秀吉)、「鳴かぬなら鳴くまでまとうホトトギス」(徳川家康)。なんかね、俺が最初に暗殺される感じ(笑)。で、MaLはこっちが投げたものを5分~10分で曲を作れるし、全然咲かすことができるから「ぜんぜんできるっしょ!」って言い放たれるタイプ。で、ヨシテルは「う~ん……」って様子を伺って、美味しいところ持っていくタイプ(笑)。

MACKA-CHIN:美味しいところ持っていくタイプって、言われがち(笑)。脳内トリップ1人旅が好きだし。

MaL:甘口、中辛、辛口じゃないですけど、三段階ギアがあるとしたらそれぞれが違うんですよ。チャキチャキやるせっかち、まあまあ普通、気がないとか、そういうバランスで成り立っているんですけど、共通しているのはめちゃくちゃロマンティックっていうこと。そのロマンティックもいいバランスで各々違うし、自分と好対照。2人の対の間にもう1人のメンバーがいるってことがいいんですよね。

MACKA-CHIN:3人というのがまたバランスがすごくいいのよ。

MOOCHY:でも昨晩とか夜中の1時くらいにMaLにブチ切れてましたけどね。「マジむかつく~」とか言って(笑)。

MaL 何なら俺は、怒られる前準備もなく、ちょうど仕事終えて家に帰る途中でルンルンじゃないですけど、コーヒーとタバコ用意して話をする準備満タンで「あ~、モシモシ~」とか言って出たら、いきなり怒られるっていう(笑)。


▷何年経っても色褪せない『ZEN TRAX』

―『ZEN TRAX』を改めて聴いて、何年経っても色褪せない作品だなと感じたんですね。それとロウ(生)な感じがZEN RYDAZにはあって。昭和感ではないですけど熱いんだけどメローというか。昨今は時間の流れも速いし、無理やり余白を埋めている感があるので余計に感じたのかもしれないですけど。

MaL:今は情報量が多いですからね。ZEN RYDAZでは、後世に残るもの、いつ聴いても色褪せないものを作ろうということが大前提にあるので。俺の場合は、普段は流行音楽をやっているので、ある意味廃れるもの、擦り切れるものを作っているという自覚もあって。例えば5年前に作った曲が、今聞くと照れくさいなみたいなのはあるんですよ。だけどZEN RYDAZはリリースして2年経ってないですけど、マスタリングし直してみて「いいな」と思えるんですね。だからいつ聴いても格好いいものを作ろうとしていた僕らの考えは、きちんと作品に注入されていたんだなと再認識しました。

MACKA-CHIN:マンハッタンレコードが、これまでにレコードデイに合わせてヴァイナルを作ったことがなくて、その記念すべく第一弾がZEN RYDAZというのが嬉しいし、それとマンハッタンレコードはヒップホップとR&Bがメインのレコード屋なのに、そこがこの作品に興味を持ってくれたことはすごく嬉しかったですね。流行りのではなくっていうことでも。

MaL:かといって、新しい手法も取り入れているんで。

MOOCHY:俺もMaLも意外と流行りものは好きだから。だけどヨシテルは、さっき言ったように「う~ん」って見ている感じだけど(笑)

MACKA-CHIN:トラップとか全然好きじゃないの。

MOOCHY:ヨシテルはJラップにおいてはモロに渦中にいる人だから、そこのリアリティは今回シンガーのセレクトにも出ている。トラップに対して俺らは「いいじゃん、やっちまえば!」ってノリだけど、ヨシテルが警戒するにはきちんと意味があるんだと思うしね。


▷既視感があるのに新しい
また、この2枚のアルバムに出会ったきっかけや、実際にその中からどのような曲を選ばれましたでしょうか?


―及川さんはZEN RYDAZとは何がきっかけで繋がったのでしょうか?

及川景子:MOOCHYさんにお仕事で使っていただいたのが最初です。私は演奏で関わっているので、ZEN RYDAZに関しては音楽を通じてなんですけど、なんだろう。ZEN RYDAZは、既視感があるのに新しい。私はかなりニッチな偏狭な音楽を掘っているので、普段はマスの中に接点がある方じゃないんです。ただ普通に共通の年代を生きてきているので、そういう時代背景は共有しているんだろうけど、その中でも幼少期の頃から端の方を手繰り寄せて、さらに端っこの方に辿り着いた感じなので。

MOOCHY:中学のときにデフ・レパードのコピーバンドでキーボードを弾いていたっていうのもありますが(笑)。

及川景子:そういう風な流れがあった中で、最初に ZEN RYDAZの音源をもらったときに、知っている景色がその中に広がっていて、なのに且つ見たことのない景色。すごく知っているし、すごく好きな色合い、なんだけどこれまで感じたことのない景色だったことは確かでした。

―ZEN RYDAZでは即興での演奏が多いですか?

及川景子:譜面に落とすのもあるし、即興もあるし、両方ですね。ある程度しっかり構築された音源を頂いて情報を感じとる場合が多いですが、あまり言葉で確認はせず。最初からしっかり作り込まれている印象があったので、そこに応えられるような分析を自分なりにしますが、とはいえ私の分析なので、それが御三方に合っているのかはわからないので、それをここ(スタジオ)で答え合わせをするんです。そうやって聴き込んで作っていくこともあるし、ここ(スタジオ)でぱっとやって、いろいろな情報を得たあとに、一度がちゃんと壊して、もう一度試すということもしています。

MOOCHY:及川さんには、ZEN RYDAZだけでなく自分の他のプロダクションにも平行して携わってもらっているんだけど、アラブ音楽で「タクスィーム」って言うんだけどインプロビゼーション(即興)は得意。『COUNTERPOINT』の「LOVE FROM FAR EAST」からアレンジみたいなのもやってもらって、今回のZEN RYDAZではラッパーやシンガーよりもフューチャリングされている。ちなみに「MOMENTOS」ってパーティでは、及川さんも何度かDJをしていて、クラシックネタを使っているOLIVE OILの曲とかかけたりするんですよ。そういう及川さんの幅広さも知っているし、ZEN RYDAZに余裕で乗れる人なんですよ。


▷個性とベテランの集まり

―ZEN RYDAZはどんなプロデュースチームだと思いますか? みな同い歳で、長い付き合いであると思いますが。

MOOCHY:喧嘩とかはしないけど、お互いイラッ! とすることはあるよね。

MACKA-CHIN:カップルみたいなもんだよね(笑)。

MOOCHY: 「ポジティブになれよ!」とか電話で言っちゃったりするし。キレられたりとか、俺がキレたりとか。だけどヨシテルの方が大人だから。そこらへん俺も甘えている。MaLはこういうガタイだから、俺が強く言っても大丈夫かなとか。

MaL:いやいや凹みますよ(笑)。出身が東京というのはひとまず置いて、同世代で各々が違う分野でやっているけど、同じ音楽という世界の中で活動していて、それがまあまあのキャリアを積んだ集合なので。俺らは音楽氷河期の中で、しかもこんなコロナ下の中で奇跡的に音楽で飯を食っていけている3人で、しかも遊びという感覚も俺の中にはあって。というのもZEN RYDAZは自分の本線ではなく、実験ができるいいフィールドなんですよね。明らかに俺だったらこうしないって作っていて思うこともあったし、それが面白いなっていうのは常にあって。作品って、一度出したら次に新しいのを作りたくなるもんなんですよ。その新しいスニーカーが欲しいみたいに。自分の中でも一番レイテストに作った曲を作りたくなっちゃうんですけど、だけど『ZEN TRAX』に関しては、マスタリング後もイージーリスニングのプレイリストに入っているくらい聴けるんですよね。

―ところでMaLさんのベース音にはやられてしまいます。やはりレゲエが軸にありますよね。

MaL:もともとはジャマイカのレゲエですけど、ロックでもレゲエでも割とUK。ラップもどちらかというとUK。ロンドンポッセとか、90年代から好きななんですよ。ブリストルというのもありますけど、全体を含むUKですね。

MOOCHY:ちなみに俺とMaLは、違うところでジャングルをやっていた。MaLは小室さん(小室哲哉)ともやっていたから、少しマスなところもいける。

MACKA-CHIN:昔、ニトロの営業で俺がソロで行ったとき、ラバ・ダブ・マーケットと一緒になったことがあったんだけど「なんだ、これ!」って。レゲエがジャングルみたいで、格好よくて驚いちゃった。

MaL:欲しがっちゃうんですよ、人と違うことやりやくなっちゃう。

MACKA-CHIN:人と違うことをやりたがる3人かもしれないですね。俺もヒップホップの中では、かなり変な立ち位置にいるから。だからねこの2人は、俺にとっては憧れなの。ヒップホップで商業的なこともやってきたけど、実際にこの2人を見ていると、ヒップホップって低レベルだなと思ったりすることもあったんですよ。俺が言うのもなんだけど実際にそこにいたからこそ、思っちゃたりするのよ。アメリカのトップチャートは、商業化されたポップスみたいにヒップホップが占めていてもはやアートフォーマットではない。だからトラップも含めて興味がまったくなくなってしまった。さらにこの人たちはUKとかにもアンテナがあって、しかもコネクションもあって、やったことがあるって、俺はロスとかタイとかではあるけど、UKではやったことないしブリストルなんかもう憧れ。マッシヴ・アタックなんか最高で、Google Earthでブリストルの街を見てこんな感じなんだとか見ちゃうもん。 で、さらに及川さんだけど、ミヤワキは生楽器演奏者のコネクションを持っていて、MaLはマスタリングまでできるという音楽的なセオリーを知った上でいろいろやっている。そういう人たちをライバルとして意識することによって、成長していくんですよ。ニトロもそうだったけど、メンバー同士でライバル視することで各々が成長していった。だから『ZEN TRAX』を出して一回で終わりだったかもしれないんだけど、どっちだかが「もう一発いつやる? 次どうする?」って冗談で言ったら、みんな食いついてきて。 単発の企画じゃなくて、続くっしょっていう。それで今、セカンドアルバムまで仕上げているという。


▷セカンドアルバム

―現在はセカンドの制作中なんですね。

MACKA-CHIN:そ! 今日も及川さんに3曲演奏してもらったりして。

―ZEN RYDERZのアルバムが2019年にリリースされたとき、MACKA-CHINがいるヒップホップサイドではどういうリアクションがありましたか?

MACHA-CHIN:相変わらず「変なことやってますね」で終わっちゃうことが多かったけど、羨ましがられるよね……「ちゃんとした音楽をやっていていいですね」っていう。制作していて思ったのが、お声がけしたアーティストが誰1人嫌がらない。基本的にラッパーは欲しがりだから、いろんなジャンルから呼ばれたいんですよ。ケミカル・ブラザーズにゆるふわギャングがフィーチャーされるみたいに、違うジャンルにラッパーとして呼ばれて、違うジャンルで自分の色を出せるって歌い手であれば、誰しもがやりたいことだと思うで。だから最後にこの2人には、「日本語ラップみたいにはしたくない」って言ったのよ。俺は自分の日常の中で違ったことをしたくてZEN RYDAZをやっているわけだしね、

―なるほど。納得しました。

MACHKA-CHIN:だから自分はラップしているのは1曲だけだし、あまりラップしてないの。前回は、俺が最初にサンプリングベースで始まった「Chuu」とかもあったけど、今回のセカンドはどうしても難しいってミヤワキに悩み相談したら、「マイク握れよ」って(笑)。 雑だけどちゃんとヴォーカリストがいて出番があるように、「おまえそこいけんじゃないの」とかミヤワキに言われて、マイク握ったり。この間はミヤワキにマイク握ってもらったり(笑)。

MOOCHY:やらさせられたの。もうね、その俺がマイクやってる時のヨシテルの感じが、父兄参観の親みたいな感じで。

MaL:MOOCHYは、いい声してるからね。

MACKA-CHIN:いい声してるの。そういう意味でも「タカシゲ(JUZU a.k.a. MOOCHYの本名)どんな?」っていうね。

MOOCHY:俺も10代のころバンドでヴォーカルやってたし、マルもラバダブで歌ってたし、俺たち3人とも一応声出してるんだから、一度3人でコーラスしようよって話もあったんだけど、結果的には進んでない(笑)。

―現在はセカンドアルバムの制作中なんですよね。及川さんは、再び参加をしていかがですか?

及川景子:前作から2年弱とはいえ進み具合もあったりするので、違うこともあるでしょうし、あとは「2回目きたか!」っていう。それに対する気持ちの上がり具合もありましたし、また呼んでもらった上がり具合もありました。

MaL:セカンドアルバムもZENファミリー……と言っても演奏家の人たちはもともとはMOOCHYファミリーでもあるんだけど、その中でも及川さんは定位置にいる。ACHARUやNISHI Pだったりは準レギュラー。俺ら3人の輪のまたさらに外の輪ができている感じもありますね。

及川景子:今日やったトラックをもらったときに、すごく好みのトラックだったんですけど、正直、私のどこを実際に見てもらってこの曲をくれたのかなとは思ったんです。だからどの切り口でいけばいいのかなと。もちろん生のヴァイオリンで呼ばれているということだけでも有難いお話なんですけど、私が特化しているアラブの音なのかなとか。だけど先ほど、MACKA-CHINさんの日本語ラップへのスタンスで、「少し抵抗があった」という話を聞いて、自分が思う「これが好きなんだよね」という部分を大切にしていいんだなと腑に落ちた部分はありました。

MOOCHY:及川さんとは、朝まで飲んで語り合ったり、現場も何度も一緒にやってきてるから、人間関係がある中で有機的に繋がっている部分がある。あと、名古屋の「GOODWEATHER」というクラブから去年、ZEN RYDAZのライヴを誘われていたんだけどそこの店主エリさんは、ZEN RYDAZの制作を少しサポートしてくれていて、ストリーミング全盛の中でアジアのアーティストも絡めてデジタルストリーミングフェスみたいなものをやった方がいいと言ってくれたりもしていて、それもインスパイアされてる。ちょうど俺がインドから帰ってきたタイミングでその話があったので、MaLにシヴァ(神)ネタで何かやろうとかそういう話にもなっていて。

MaL (笑)。トラウマだよ、シヴァは。


▷レゲエミュージックから紐解くオリジナル文化

MACKA-CHIN:『ZEN TRAX』はお正月返上で作っていましたけど、今回はコロナで時間あるっていうのは雑な言い方だなと思うんですけど、その時間と波長のある作り方をしていると思います。シンクロして。

MaL:シーズンオフのときにZEN RYDAZは活動する。だけどコロナだけど、休みって感じではないと思うんですね。ただいつもよりも隙間がある感じなのかなって。クラブの現場がないので、DJで、且つ制作をしている人はいいですけど、DJだけの人は本当に大変だろうなと思います。ただワールドスタンダードとして、DJは曲を作るべきなのではとも思います。十数年前にロンドンのレゲエカルチャーのコミュニティでDJをやったときに、みんな自前のオケでプレイしていたんですよ。オールセルフ・プロダクションでDJをしていたんですけど、それが当たり前のことで。そのときに人のオケでDJすることが恥ずかしいなと感じたんです。

MOOCHY:ジャングルのシーンで俺もやっていたときに、UKの奴らは完全にダブプレートでしたね。奴らは自分たちのダブプレート持ってきているのに、俺らはレコード屋で買ってるものをかけてるの? って、俺もMaLと同じようなことを感じていた。それと羨ましかったのがクルーになっていること。METALHEADZとかプロデューサー集団だしね。

MaL:各々が曲を作ってかけて、さらに同じクルーの曲をかけて。俺はなんでUKが好きなのかというと、UKってレゲエを当たり前で知っている国なんです。クラッシュもですけど、レゲエを普通にカバーして曲を作ってるし、DJをロンドンでやったときに白人の女の子に「今日は良かった」って言われて、話をしてみたらラジオでローディガン(DAVID RODIGAN)聴いているから、レゲエは全然大丈夫って。国営放送レベルでレゲエが朝からかかっていて、ラジオカルチャーでもレゲエがある。

―レゲエが濃く存在するローカル発の音楽がロンドンには根付いていますね。

MaL:そうそう。だから3人ともUKカルチャーが気になっているのかもしれないし。東京はレコード屋もクラブもたくさんあるし、なんならDJ機材とか日本製がたくさんある。それなのにクラブ後進国なんですよ。プロデューサーが少ないこともあるだろうし、もちろんドラッグとかも関係してくるのかもしれないけど。あとはクラブの成り立ち。風営法もそうだし。

―MaLさんはどうしたら東京のクラブシーンは育つと思いますか?

MaL:まずは脱外タレ。外タレ来てもいいです。だけど呼びすぎだし、超レガシーコンテンツで盛り上がりすぎ。だから進まないのかなって。あとはクラブ業界でメイクマネーできる裏方が少ない。僕たちは奇跡的にクラブ業界で生きていますけど、その奇跡的に生きていることがやばい。10代のDJを目指している人たちが、TikTokで有名になるのか、YouTubeで有名になるのか、クラブで有名になるのかと言ったら、一度クラブは除外しますよね。リファレンスがないから。人口1億3000万人いて、日本語という時点でガラパゴスということもあるだろうし。

MACKA-CHIN:その流れだと、ここ10年くらい和物が注目されているけど、各々のジャンルのベテランがある程度のことを吸収して、今一度日本人のアイデンティティや、日本の曲を見つめ直している傾向にはあると思うんだよね。和物は一緒に歌えるし、和物の面白さを再確認している。あとレコードカルチャーが人気を呼んでいる時代の流れの中で、洋楽の中にこの和物であればかけられるんじゃないかとか。だから MaLが言っていることは合っているんですけどね。

―逆に今が日本人の人たちが外へ出ていけるチャンスでもあるのかなと思いました。

MaL:ただ言語の国境が難しいというのはありますね。でも明らかにチャンスなので、外に出て行けるときではあるんですよね。

MACKA-CHIN:そう、チャンスでもあるんだよね。レコードでリリースされることもあるし、海外を意識している人たちも多いと思うので、日本だけで終わらせたくないというか。なので、今後は向こうのミュージシャンの人たちともやってみる話は出ています。そこでミュージックリンクして、英語なら多くの人たちが歌詞を理解できるかもしれないし。


▷ローカルを盛り上げてこそ世界と肩を並べることができる

―深いですね。 ZEN RYDAZは個性のあるベテランの集まりでもある。

MaL:浅く見積もっているから、深くにもいけるのかもしれません。海外を意識している点は、MOOCHYもそうだし、自分も海外を意識して10年くらいやってきてるんですけど、ZEN RYDAZをやる前にMOOCHYが一言、「東京を盛り上げなかったらダメでしょ」っていきなり言われて。どこでDJをやっても、てめえのホーム盛り上げないとダメでしょってことを言われて。それに俺は傷ついて。だけど、確かにそうだなって。それを同じ年の奴に言われたて気付いたし、ダサいって思われたくないと思ったし。

MOOCHY:大東亜共栄圏的な。

MaL:そんな中、このタイミングでこの時期に『ZEN TRAX』を ヴァイナル化できたことはすごく大きなことなんです。去年からコロナ下が始まって、セカンドの制作も少しづつ始まって、だけどそこでひとまず止まってヴァイナル化へ作業に移ったんですけど、そのときに『ZEN TRAX』がなんて素晴らしい作品だったのかに気付いたし、みんな「もっと良くなるんでしょ」って自分たちの伸びしろにワクワクしちゃったんですよね。あとアルバムというのは映画のサウンドトラックと同じなんだってMOOCHYに言われて、確かにそうだなって。招くアーティストたちは、ある意味アクターなんですよ。

MOOCHY: ヴォーカルも演奏者も俳優に例えて、こっちは監督的な。

及川景子:話がようやく繋がりました(笑)。

MOOCHY:映画のサントラも含めて、全般のアート、芸術表現というところで日本はまだ先進国だと思うけど、その中でもイマジネーションすることが大切だと思っていて。『ZEN TRAX』のCDの中でも『禅とオートバイの修理技術』という本を紹介しているんだけど、その本の中で描かれている想像性がすごくて、そういうことを共有した上でさらに進めて、世界中のみんなとも作品を作れて、俺らのアイデアやイマジネーションを共有して聴いてくれたら嬉しいなとか。

―ローカルで宿した精神や思考を音楽を通じて、世界の人と共有するという感じでもありますね。

MOOCHY:MaLが脱外タレと言ったけど、それは今、世界中でも起きていて、内需みたいなものが求められている。極端に言ったら地元にいても、STAY HOMEみたいになっていると思うから。だからこそ、パーソナルの部分でイマジネーションが湧くような……音楽って、 “マインドにおけるスパイ”みたいなところもあって、そこでウィスルみたいに培養される。音楽を聴いてすぐに発症しなくても、後で発症するということもあるので、それが音楽の強度というか。その強度というのは美しさと比例すると思うし、さらに俺たちはウンドシステムカルチャーやヒップホップカルチャー含め、クラブで培った恩恵を次世代へ投げたい。もはや瓦礫の下にある状態だと思うんだけど、その残骸を拾い集めることも音楽好きとしてはやるべきことだし、及川さんが背負っているアラブのヴァイオリンにも俺たちはその伝承を感じているから、そういう要素もきちんと曲に込めると面白いことになっていくんじゃないかなって。遊びではなく、とにかく純粋なクリエイションをしているだけの話なんだけど。

及川景子:闇というか、その闇がダークであればあるほど、音楽はそれを反映するものになっている。私自身の音楽の使命はそれだと思っているんですけど、音楽の本質とはそういうもので、ダークなものを反転させて、音楽でそれを光のようなものに昇華させて……みたいなことだと。だから、今だからこそみたいな。そういう意味では、私はこの3人の外側の縁にいる立場ではあるんですけど、 ZEN RYDAZを通じてやっている中で得る情報の、ガシャっと中で出来上がった融合体がフワっと抽象的に放出されて……なんていうのかな、伝染力というんですか? 先ほどスパイと言われていましたけど、放出されて抽象度がすごく高くなったところで、普遍的なところに落とし込めるパワーや伝染力。具体的にブランディングした情報をキャッチできるクリエイションになっているなと思います。

―抽象的であり、だけど向かう方向ははっきりしている。

及川景子:抽象的というは、この3人のバランスが力になっているからだと思うんですけど、例えばアラビア語って、単数は1ですが、アラビアには双数という単位があって、2というのはアラブでは複数じゃないんですよ。3以上が複数なんですね。だからその3人の複数が打ち上げられたからこそ、抽象度が上がる。2だとまだ私的な状態のものが、3になることで公に抽象的なものになる。それがバンッと高いところにあがって、それが ZEN RAYDAZのなっているというか。これは外側にいる私が感じていることでもあるんですけど。


▷クリエイティヴな数字は3

―さすが及川さん……。視点がもう。

及川景子:普遍性や抽象度が高いからこそ、個人にぐっと引き寄せることができる。クリエイティヴな数字って3と言われていますけど、そういうふうに全方位放射みたいなパワーや感染力があるところで、すごくいい形で情報が昇華されているなと思っています。いろんな人にフックがあるような全放射な感じ。それが「既視感があるのに新しい」ということに繋がっているのかなと。だから演奏をする前に細かいやりとりをしなくても、すでに上の方でキャッチボールをしているんだなと、今日3人の話を聞いていて思いました。

MOOCHY:公約数が3になると増えるからね。もちろんシビアにもなるし。俺がいいと思っていることも、ヨシテルからしたら「暗い」とか「長い」とか。

MACKA-CHIN:「これ聴いてどう思った?」とかよく質問されるの。それに対して「ん~、暗い」「長い」とか言っちゃうんだけど(笑)。だけどファースト・インプレッションをお互い大事にしているからね。

MOOCHY:それは俺とMaLが頑張って実務作業をしていても、ヨシテルから言われると、どうにか攻略しなきゃってなるんだよね。ヨシテルを攻略できれば聴いてくれる層の幅が広がるから。あとヨシテルはいろいろな曲を研究しているから方程式みたいなのも知っていて、その中で「これ狂ってんね」とか、狂っているかどうかを判断するんだけど、ヨシテルにとってのその「狂ってる」は褒め言葉で、これまでにないオリジナリティがある、他にはない、面白いっていうことになると思うんだけど、それがなきゃ俺もいけないと思うしね。あと、「美しい」っていう言葉もよく使うんだけどそれも褒め言葉で、もうある意味主婦の意見。

一同笑

MOOCHY:ジャガイモ切りながらじゃないけど。

及川景子:ええ~!そこに繋がるの!! すごい伏線引いたなあ(笑)

MaL:なげええ(笑)

MACKA-CHIN:(笑)

及川景子:これが、ZEN RYDAZですよ。

MaL:本当にありがたいですよ。だから、ZEN RYDAZは企画ものではない。最初は企画ものでスタートしたかもしれないですけど、すごく刺激を受けるくらいどんどん成熟していっている。だからすごく面白いなって思います。


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